アートをめぐる旅

パリ・ワシントンDCで暮らした共働きの転勤族が、歴史・文化・芸術・自然をめぐる旅をしています。

発電所が美術館に! 近現代美術の殿堂 テート・モダン  

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世界金融の中心地シティを抜けて、テムズ川にかかかるミレニアム・ブリッジから見たテート・モダンです。火力発電所だったかつての姿がほとんどそのまま保たれている外観はあまりに斬新。いまや近現代美術館世界第2位として、刺激的な話題を発信し続けるパワープラントへと変貌を遂げました。開館は2000年。以来、このサザークエリアも活気あふれる観光地へ生まれ変わったのです。

Top 10 Museum2012-12012年 世界の美術館入館者数ランキング
“THE ART NEWS PAPER”より

開館当初に掲げた、ニューヨーク近代美術館、パリ ポンピドゥーセンターに並ぶ世界の3大近代美術館になるという目標は大きくクリア。それどころか、大英博物館、ナショナルギャラリーとともに、総合5位圏内入りを果たしています。ロンドンの美術館の質の高さが、集客力の高さに結びついていることが見て取れます。

それにしても、ルーヴルの勢いは止まりません!2位以下を大きく引き離し着実に記録を更新中。1,000万人突破も時間の問題といったところでしょうか。

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むきだしの黒い鉄骨と真っ白な壁、アイボリーの床が明るいシンプルな館内。入館料無料の国立美術館ですが、エントランスではこうして寄附を募っています。配布用の館内マップには大きく “£1” と印刷され、その横にはお金を入れる箱が設置。具体的な金額が表示してあるところが面白いですね^^

館内は、地下1階から6階までと広大ですが、実質展示スペースは2・3・4階。地下1・地上1階は美術専門書も扱うミュージアムショップ、5階はメンバーズルーム、6階はテムズ川の眺めが爽快なレストランになっています。
残念ながら、観客の度肝を抜くインスタレーションで名高いタービンホールは2013年11月現在、改装中でした。

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2階:LEVEL2 詩と夢想(POETRY AND DREAM)
― 潜在意識や夢想を主題にしたシュールレアリズムと関連の絵画、彫刻 ―

ピカソ “泣く女”が実は “ゲルニカ” に描かれた子供を亡くした女の習作であったとははじめて知りました。モデルは愛人ドラ・マール。実際、彼女は女性関係でピカソに盛大に泣かされ続けたわけですが、彼女が写真家だったおかげで、貴重なゲルニカ制作過程は後世に残されました。
そして、ダリ(右上)とキリコ(右下)。骨の髄までシュールでクールなのは、やっぱりキリコだね!

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3階:LEVEL3 変換されたヴィジョン(TRANSFORMED VISIONS)
― 第二次大戦後、新たな表現は抽象化に向かって進んでゆく ―

右はモネの “睡蓮”、左はゲルハルト・リヒター。時代を超えたコラボレーションです。光と水の反射、自然の色の移り変わりを何十年と飽くことなく描き続けたモネがたどりついた先が、21世紀の抽象と共鳴している!モネの一世代前のターナーだって晩年の作品は抽象であったという事実。でも、自然を探究した末の抽象と、現代の抽象は似て非なるものであること、同じ空間で並べてみると明白でした。

それにしても、リヒター作品が昨秋、27億円で取引きされて騒がれましたが(しかも出品者はエリック・クラプトン!)あらためて投機の対象としての芸術にも興味が湧いてきますね。芸術って、お金の匂いがぷんぷんする「危険物」だからこそミステリーも生まれるわけですし。

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4階:LEVEL4 構造と明確性(STRUCTURE AND CLARITY)
― 20世紀初頭以降発展してきた抽象芸術、幾何学的抽象やミニマリスムなどを展観 ―
エネルギーとプロセス(ENERGY AND PROCESS)
― 1960年代後半にイタリアで興った石や木材、工業品素材を用いて制作する芸術運動アルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)とその周辺 ―

この辺を熱く語れるようになってはじめて、真の芸術通と呼ばれるのでしょう・・

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最後に、最上階のいちおしレストランをご紹介します!
TATEのWebサイトからもカフェやレストランに力を入れているさまが伝わってきますが、料理にも内装にもこだわりが感じられて大満足な内容でした。ロンドン在住の同期夫妻と、河畔の立地を生かした素晴らしい眺望を楽しみながらの食事は、この街の「今」を実感できる充実した時間となりました。

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サウス・ビルディング完成予想図 © Hayes Davidson and Herzog & de Meuron

すべての人に開かれたイギリスの国立美術館は、さらにソーシャルスペースとしての役割強化にも着手しています。レストランやカフェの充実もその一環です。現在進行中のテート・モダンの増築が完成するのは2016年。アートと人の関係もより多角的により深く、時代とともに変化してゆく。常に自らを刷新しつづける芸術の都ロンドンからは、静かな自信と熱気が伝わってきました。

Tate Modern
Bankside London SE1 9TG

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クロアギャラリーで英国風景画の巨匠ターナーに出会う  

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テート・ブリテン第2弾!
今回は、英国風景画の巨匠 J.M.W.ターナー(1775−1851)のために1987年に増築された “クロア・ギャラリー” をご紹介します。

JMWTurner003.jpg現在、東京で開催中の “ターナー展” で知名度急上昇中の ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー

死後にしか評価されない芸術家が山といる一方、10代からその才能を認められたターナーの生涯は、憂いなく創作に没頭した順風満帆なものでした。

20代後半でロイヤルアカデミー正会員に選ばれ、イギリスはもとよりヨーロッパ各地を旅します。そこで見た風景や人々を描いた膨大なスケッチ、水彩、油彩は、遺言によって国に寄贈され、そのほとんどがこのクロア・ギャラリーに収められているのです。その数30,000点以上!

Works-on-Paper.jpg
クロア・ギャラリー入口の説明書き。スケッチと水彩だけで37,000点とありますね!

The Dogano
© TATE,London
The Dogano, San Giorgio, Citella from the Steps of the Europa exhibited 1842

ターナーは、のどかな田園風景や峡谷、雨の降る湖、荒れ狂う海、運河や橋、光に包まれた城など、あらゆる風景を描きました。とりわけ彼が魅せられたのはイタリア、ヴェネツィアの風景です。
どこまでが水面なのかわからない光の反射ともやがかった空気にとけるルネサンス建築。この肌触りすら感じられるほどの空気感こそ、彼が生涯かけて探究した主題だったのです。「光の錬金術師」と呼ばれるのもうなずけますよね。

ここまできて、あれ?なにかに似ている? と思われた方・・・
そう、1860年代にフランスで起こった・・・

The Rigis005
© Tate,London
右上から時計まわりに、
The Blue Rigi, Sunrise 1842
The Pink Rigi 1844
The Dark Rigi 1842 Private Collection, UK
The Red Rigi 1842 National Gallery of Victoria, Melbourne, Australia

ターナー晩年の最高傑作、スイスのリギ山を描いたリギシリーズです。
彼が旅したスイス ルツェルンで、実際に滞在した湖畔の宿から湖越しに見たリギ山の、刻々と移り変わる光と水の色と反射。クロアギャラリーで私が受けたいちばんの衝撃は、フランス印象派の源流をイギリスで見た!!というひと言に尽きました。

Monet Rouen

1892年に描きはじめられたクロード・モネの30数点の連作、ルーアン大聖堂
1888年から数年にわたっては「積み藁」の連作で光と色の変化を探求しています。

Turner.jpg
© Tate,London
The Scarlet Sunset  circa 1830-1840 J.M.W. Turner

モネの “印象・日の出” に先立つこと約40年。ブルーペーパーに描かれたターナーの水彩、日の入り場面です。ターナーの技法を学ぶため多くの画家によって模写されたことが記されていました。晩年に向かうに従い、彼の絵からは対象の造形が消え、ただ色と光が織りなす世界へ没入していったことが見て取れます。究めた者だけがたどり着く境地。晩年のモネが、まるで1940年代後半に起こった抽象表現主義のような絵を描いたのとそっくりです。

Monet-Impression,-Sunrise
Impression, Sunrise 1873 Claude Monet Musée Marmottan

テートのサイトはとても充実していて、テートを構成する4館 (テート・ブリテン、テート・モダン、テート・リバプール、テート・セントアイヴス) すべての収蔵作品をたちどころに検索して見ることができます。
トップページの検索窓に “Joseph Mallord William Turner” と入力すると関連作品も含めて40,000点以上ヒットするので、図録がなくても充分に楽しめますよ!
TATE公式サイト: http://www.tate.org.uk/

最後に、ターナーの自画像を見て「超イケメン!!」と興奮したあなた。

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© Tate,London
Portrait of J.M.W. Turner 1852 Charles Turner

ターナーの友人でロイヤルアカデミー付属美術学校で一緒だった版画家、シャルル・ターナー(Charles Turner)によるJ.M.W.ターナー、40才頃の肖像です。
自画像とのギャップに、彼にもコンプレックスらしきものはあったのだとちょっとだけほっとしたりして^^

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素晴らしいタイミングで、ターナーの自画像が運ばれてきました!
ヨーロッパの美術館では営業時間中にも普通に工事や作業が行われていたりします。
いつも自然体。自由な雰囲気がほんとうにいい感じです。

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クロアギャラリーのエントランス。
テート・ブリテン全体で大きなひとつの建物なので、どの入口を利用してもクロアギャラリーへ繋がっています。

現在、日本で開催中の “ターナー展” もぜひ!
東京都美術館 : 2013年10月8日~12月18日
神戸市立博物館 : 2014年1月11日~4月6日


Tate Britain‎ (入館料無料:企画展除く)
Millbank, London SW1P 4RG
※ 美術館公式サイトからの画像は“Copyright and permissions” に基づいて転載しています。なお、写真撮影は区画によって可能でした。(フラッシュ禁止)

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